Everything Flows vol.7 「糸(いと)」の話。

代表の高木です。

前回、会社は「箱(はこ)」だという話を書きました。

かつて、その言葉を教えてくれたK編集長はカドカワの中でも敏腕編集長として知られていて、男女や上司部下を問わず、多くの人から人望を集めていました。

でも、実をいうと、K編集長は「組織が大嫌い」な人でした。組織作りも上手く、雑誌の販売部数も伸ばして会社に貢献していましたが、とにかく「会社や組織、権威というものが大嫌い」な人だったのです。

すごくオシャレな人で、ふだんは爽やかな青のジャケットに白のポロシャツにジーンズ、土日(休日)出勤では、アロハシャツで編集部に現れて「おーい、仕事なんて早く終わらせて遊びに行こうぜ!」と大声で言って、時々デスクや副編集長から叱られていました(笑)。

一度、雑誌の販売部数が伸びて、社長賞を受賞したことがありました。

副賞が賞金10万円。編集部で自由に使っていいとのことで、私たちは寸志を期待しましたが、なんと、K編集長は「40人近い部員に10万円を分配してもたかがしれている」と言って、10万円を全額、競馬にかけてしまいました。

しかも万馬券狙い。それが思い切り外れて、10万円はあっという間に紙くずに…。みんなは呆れて、ブーブー言ったのですが、その後、K編集長は、ポケットマネーで10万円を出して、それぞれの部署で食事に行かせてくれました(いろんな意味で、今では考えられないエピソードですが…苦笑)。

プライベートでは、サーフィンを趣味としていたので、いつも口ぐせように「オレはさっさと会社を辞めて、海の家を経営してサーフィンをやりたい」と何度も言っていました。

20代後半だった私は、編集部では下っ端でしたが、先輩だろうとデスクだろうと副編集長だろうと、時にはK編集長だろうと、自分が正しいと思った事はなんでもズバズバ言う、でも「言ったからにはやることはやる!」という気持ちだけは強い! というか、一歩間違えれば、かなりイタい勘違い編集部員でした。

会議や打ち合わせでも、身のほど知らずに上の人に食ってかかった回数は数えきれません。週刊誌なので、みんな徹夜続き、食事もロクに食べられず、仕事はいつも山積み、気持ちは常にささくれ立っていて、毎週、誰かに食ってかかる、うっぷんだけは山ほどありました(苦笑)。

今となっては、本当にお恥ずかしい限りです。

でも、アウトローで組織嫌いなK編集長は、そんな私をおもしろがってか、すごく可愛がってくれました。仕事以外でも、しょっちゅうご飯に連れて行ってくれて、いろんな事を吸収させてもらいました。

そんなK編集長に「会社を辞める」と伝えた時に言われた『箱』の話。

あれから四半世紀が経って、私も自分なりの『箱』を作って15年。

実は前回、あのコラムを書いたあと、少し違和感が残っていました。

本当に、会社はただの『箱』なのだろうか?と。

いろいろ思案しました。100年続く老舗やブランド力のある大企業、勢いのあるベンチャー企業など、結局は、どれもやっぱり、基本は『箱』なんだ、という結論は変わりません。でも、単なる箱か、というとそれだけではないのではないか?と。

で、私が補足した答えが『糸』です。

会社は『箱』だけではなく、その中には、常にいろいろな色の『糸』が入っていて、それが幾重にもなって結ばれたり、巻かれたりしている。その糸が、何年もかけて、きれいに同じ方向に巻かれていれば、会社は強く乱れない。

でも、糸がバラバラで、あるいは、ひどく絡まっていれば、会社は弱くて安定しない。また、糸は『箱』から出てしまっても、切れずにつながっていれば、またどこかで結ばれることもある。

K編集長も「人の縁」の大切さを教えてくれましたが、会社は『箱』だけれど、その中に入っている『糸』が結びついて成り立っている。

「人の縁」に関しても「結ぶ」や「切れる」と表現されるので、私としては、とてもしっくりする表現になりました。

「会社は『箱』と『糸』でできている」

K編集長に教えてもらって、あれから25年。私なりに出した、今の答えです。